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結晶

 

 

羽化していた。

夏の日、梅の木でこっそりと。

じりじりと厳しい日差し、まるで巨大な壁を押しつけられるような暑さ。

走り回って仕事していた時に、なぜかふと目に留まった。

見つけた瞬間は、暑さも忘れ、時間が少しだけ止まったようになる。命の神秘に触れる。汗まみれの顔でもきっと俺の眼は子供みたいに輝いてた。

純粋にすごいと思った。

 

けれど、もう一度時間を置いて覗きに来た時、蝉は地面に落ちてしまっていた。自分の殻が硬くて羽化するのに疲れてしまったのか、やはりこの暑さに参ってしまったのか。真相は分からない。

その夢いっぱいだった小さな結晶には続々と蟻達が群がってきており、俺はただただそこに立ち尽くす。

こうして命のやりとりが常に行われているんだな、と思い出す。

汗がぽたりと地面に落ちてゆく。

夏の日がまたじりじりと迫ってくる。

頭上では多くの蝉達が叫んでいた。

振り返り、また走って仕事に戻る。

響くことのなかったこの蝉の鳴き声を想像しながら。

夏の中を走ってゆく。

 

 

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